the pillows tribute/synchronized rockers

なんつーか、ピロウズファンの中では、出る前は(多分、出た後もだ)賛否両論あったトリビュートですが、僕は純粋に待望してました。そこには、期待も不安も勿論あったけれども、でも。でも、楽曲もいい、歌詞もいい。けれども、待ってない人に伝えるのはきっと苦手なピロウズの、その良さを。参加アーティストが、トリビュートというカタチで構築しなおしてくれたら。そう思って、ずっと待望していたわけです。

そして、その期待に違わぬ良盤が届きました。既に想像を張り巡らせていた僕としては、一曲一曲に思うところもあるのだけれども、それはまた聴き込んでからにします。
ひとまず言いたいのは、3曲の素晴らしすぎるトリビュートがあったこと。仕事の休憩中に買って、聴いて。ほとんど泣きそうになりながら、残りの1日を過ごしました。

まずは、エルレガーデンの"Funny bunny"。これですよ、僕がこのトリビュートに求めていたものは。「君の夢が叶うのは誰かのおかげじゃないぜ 風の強い日を選んで走ってきた」サビのこの印象的なフレーズ。良い悪いじゃなく、ピロウズがこれを歌うと、「僕と君」という、極めてミニマムな世界が出来上がってしまい、だからこそ感動的な曲でもあるんですが、ピロウズの描く世界って、多分に閉鎖的で。ピロウズを「僕」、リスナーを「君」とした、単純な関係を許さないところがあると思うのです。それを、エルレガーデンが焼きなおすことによって、「君=リスナー」という、ストレートにカタルシスを与えうるカタチに変わった。これでやっと、この曲はポピュラリティを獲得できた気がするわけです。これが出来るエルレガーデンに脱帽。CD買おう。

さらに、バンプオブチキンの"ハイブリッドレインボウ"。無人島に取り残された、という設定から始まり、サビで「昨日まで選ばれなかった僕らでも明日を待ってる」と歌うこの曲は、ストーリー性も強いのですが、ピロウズが歌うと、「主張の為のストーリー」という印象があるのです。テーマをいかに強く訴えるか。その手段として、ストーリーを組み立てた。という感じの。それが、バンプが歌うことによって、「ストーリーから滲み出てくる悲哀」というか。ストーリーが浮かび上がらせる力強さというか。曲の持つ、また違った一面を、非常にくっきりと浮かび上がらせた、という意味で、バンプオブチキンのこれは、もの凄く良かった。原曲に感じていた圧倒的なテーマを、思いもしなかった角度から不意に差し出されて、本気で涙出そうになった。むしろ滲んだ。

そして、ミスチルの"ストレンジカメレオン"。これに関しては、期待していたのと正反対から攻めて来られたんだけども、正直がっかりしながらも、これが最高なのです。このトリビュートで僕がミスチルに望んでいたことは、普段のミスチルの「不特定多数に向けたポピュラーミュージック」ではなく、極めて特定の、小さな対象に向けたメッセージソング。僕はピロウズのような人間のちっちぇえバンドを愛しつつも、マスに向けた発信ができることの強みというか、大勢の人間の視線なり興味なりを引き付けることの出来る強さというか。それこそ何百万人の期待を背負えるチカラ、ってのに非常に興味があって。「そういうバンドが、ピロウズがやってるみたいなちっちゃな範囲にチカラを集約したらどうなるのか?」ということに興味津々だったのですが、しかし。ミスチルはどこまでもミスチルでした。見事にポピュラーソングに仕上げてきた。その分、原曲にあった圧倒的な孤独感だとか喪失感は薄れているけども、そんなこと問題にならないほどの、完成度。原曲の持つ、とことんまでネガティブな故に輝く優しさ、みたいなのが、見事なまでにネガティブさを排除して(勿論、ちゃんと内包はしていて、それがまた凄いと思う)、そのくせ、前述したようなネガティブな故に輝く優しさ、の優しさ部分だけはしっかり汲み取って差し出してくる。メジャー感、ってのは、やっぱりそういうことなんだよなぁ、きっと。ミスチルやっぱり凄ぇ。

ということで、この明らかに原曲に新しい息吹を吹き込んだこの3曲の他にも良い曲満載のトリビュート。原曲が死ぬほど好きな僕は客観的にこれを聴く事はできないけど、単純にアルバムとしても良いし、ピロウズの曲に対する各アーティストの解釈ってのが伝わってきて、原曲がより鮮明に浮かび上がってきて。これってトリビュートとしては理想的なカタチなんじゃないか。これ、聴き込むと更に違う展開も見えてきそうなので、しばらくは手放せなくなりそうです。


追記:マニアなら知ってるかもですが、"Funny bunny"の「君」は、もともと「僕」だったのを、レコーディング直前に「君」に直したという裏話が。あります。ので、閉鎖的なのはある意味では致し方ないんですけどねー。


シンクロナイズド・ロッカーズ

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